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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)4675号 判決

原告

西村佳子

右訴訟代理人弁護士

松井千惠子

大野町子

井上二郎

上原康夫

被告

イー・エフ・カレッジズ・インタースタデイ

・ファーイースト株式会社

右代表者代表取締役

中田修一

被告

中田修一

右被告ら訴訟代理人弁護士

稲澤宏一

片岡剛

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、連帯して金五九二万六三四九円及びこれに対する平成二年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

(本案前の答弁)

1 原告の被告らに対する訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案に対する答弁)

主文と同旨

第二  当事者の主張

一  原告の請求原因

1  当事者

(一) 原告は、昭和六〇年四月大阪府立和泉高等学校に入学したが、その後、被告イー・エフ・カレッジズ・インタースタディ・ファーイースト株式会社(以下「被告会社」という。)の「米国公立高校正規留学ブログラム」による一年間のアメリカ合衆国公立高校留学のため、昭和六一年七月、日本を出発し、同年一一月に帰国した者である。

(二) 被告会社は、日本の学生等のヨーロッパ語学研修旅行の計画、斡旋等を目的として設立された会社である。

そして、被告中田修一(以下「被告中田」という。)は、被告会社の代表取締役である。

2  アメリカのエドケーショナル・ファンデーション・フォア・フォーリン・スタディ(略称EFFS)との契約

(一) 被告会社との間で締結された本件契約

(1) 原告は、昭和六〇年八月に、被告会社の「米国公立高校正規留学プログラム」に応募して、選考試験を受け、同年九月二七日に同試験に合格した。合格者に必要な負担金名目の契約金は九〇万円であったが、原告は、同年一〇月七日、うち一五万円を支払い、被告会社との間で、「アメリカ合衆国公立高校留学とホームステイ契約」(以下「本件契約」という。)を締結し、さらに、昭和六一年五月一四日までに、右契約金の残金を分割して支払った。

ところで、本件契約の内容は、①応募してきた留学生を、米国海外情報局による青少年交換プログラムの実施基準に基づいて、アメリカ合衆国の公立高校に一年間留学させることを目的とする、②被告会社は、留学生のために、適切な公立高校を選択し、さらに、書類審査及び被告会社による訪問調査を行って、適切なホストファミリーを選択し、ボランティアの家にホームステイさせる、③留学生とホストファミリーの関係が常に円滑であるように連絡をとり、何らかの問題が生じたときは、被告会社が率先して解決に当たる、④被告会社の右義務を履行するに当たり、アメリカのエドケーショナル・ファンデーション・フォア・フォーリン・スタディ(略称EFFS。以下「訴外米国法人」という。)にその事務の一部を委託する(現地には、地元の名士で、ハイスクールの校長やホストファミリーと知り合いの「エリアリプレゼンタティブ」(以下「エリアレップ」という。)がいて、ホストファミリーへの紹介、通うことになる公立高校の案内、各種行事や交通手段などの情報提供、困ったときの相談等、きめ細かい世話を行う。)というものである。

そして、本件契約締結前に見せられたガイドブックや、オリエンテーションでも、日本のEFFSは訴外米国法人と同一組織であり、毎日連絡を取り合いながら世話を行っているとか、緊急時や困ったことがあったときは日本語でもコミュニケートができ、問題があれば、何時でも日本のEFFSが相談に乗ると述べられていた。

(2) ところで、被告会社とEFFS日本事務局とは、所在地、電話、従業員などがすべて同じであり、EFFS日本事務局はすなわち被告会社である。米国海外情報局の規則で、日本での送り出し団体も、非営利法人であることが必要とされているために、被告会社は、EFFS日本事務局の名称を利用しているにすぎない。そこで、本件契約は、原告と被告会社との間で締結されたものである。

(二) 被告会社の本件契約締結への関与(予備的主張)

(1) 仮に、本件契約の相手方が、被告会社ではなく、訴外米国法人であるとしても、被告会社は、EFFS日本事務局の名で、前記留学生の募集事務を行い、パンフレットの配付や、留学生の選考試験・ガイダンスの実施、契約金の受領等を行っているから、結局、被告会社は、訴外米国法人から委託を受けて、訴外米国法人の代理人として、原告と本件契約を締結したのである。

(2) 仮に、被告会社が右代理人でなかったとしても、右の事実関係からすれば、被告会杜が、原告と訴外米国法人との間の本件契約締結を仲介したことは明らかであって、本件では、昭和六〇年八月ころ、原告と被告会社間で、右の意味での仲介契約が成立した。

3  原告の留学先での実際

(一) 原告は、昭和六一年五月末、被告会社から、ホストファミリーが、オレゴン州ポートランドで食料品店を経営するアンダーソン一家に決定したとの通知を受け、同年七月二四日、日本を出発し、アメリカ、エバーグリーン州立大学で、三週間の語学研修を経て、同年八月一五日、アンダーソン家に到着した。

アンダーソン家は、共働きの夫婦と、ホストシスター(一六歳)、ホストブラザー(一三歳)の四人家族であった。

(二) アンダーソン家で、原告は、ホストシスターと同じ部屋を使うこととされたが、ベッドは簡易ベッドであり、机も、一つある机はホストシスターが独占していて、使用不能であった。そこで、原告は、勉強机を自費で購入することを申し出たが、拒否された。

また、食品がほとんど供給されなかった。近くに食料品店はなく、原告は車の運転もできないため、食料品を買うことができず、やむなく、買いおきのコーンフレーク、クッキー、冷凍食品を食べたりしたが、それも無い日が続いたので、日本から送られてきた「おかき」や、買いおきしていた白米を炊き、飢えをしのぐ有様であった。

原告は、ホストシスターから風邪をうつされ、激しい咳と三八度の高熱で苦しんだことがあったが、アンダーソン家では、原告を三日間放置した後で、原告に、地下室のランドリールームに移るように指示してきた。しかし、原告は、衰弱しており、地下室に移れば病気になると説明して、断った。

(三) 原告は、たまりかねて、一〇月二〇日、エリアレップのマーシャに面会を求め、状態の改善について相談したが、マーシャは、原告の訴えに耳を貸そうとしなかった。

原告の母は、翌二一日、被告会社に電話し、「頼むから娘の状態改善に助言してほしい。病気になれば、余計に、ファミリーや被告会社に迷惑をかけることになる。」と訴えたが、被告会社の返事は、「母親からの電話は、訴外米国法人にテレックスで送られる。被告会社に対するあなたの態度が、娘を余計に窮地に追いやることを知れ。」というものであった。

その翌日の二二日、マーシャが、友人を連れて、原告の部屋に来て、腹痛で寝ていた原告に対し、「何で腹が痛いのか。私なら首筋をつかんで放り出す。日本の親に何で知らせたのか。何も言うな。」と怒鳴った。

即日、原告が原告の母に電話で知らせたため、原告の母は、その日のうちに、被告会社に電話して、ホストチェンジをしてほしいと求めたところ、被告会社は「被告会社が気に入らなければ、いつ、引き取ってもらっても結構。連れて帰れ。」と怒鳴った。

しかも、被告会社は、マーシャに対し、原告がホストマザーに日本食を作れと求めたり、自分で食事の用意をするのは嫌だと言ったなどとする内容虚偽の報告書を作成させ、訴外米国法人本部宛に送付させた。

原告は、ロスアンゼルス在住の伯母渡辺達子に電話して窮状を説明し、渡辺達子が原告のホームステイ先を訪問することにしたが、そうすると、被告会社は、従来の態度を豹変させて、ホストチェンジを行うと言い出して、マーシャも、「ドアをトントン叩いたり、大声を出して、怖がらせたのは悪かった。」と言い、花を持って、謝りにきた。

ホストチェンジが決まった後、アンダーソン家では、原告とは一切口をきかなくなり、食品も提供しなくなった。

(四) 一一月五日、学校から帰宅した原告に対し、ホストマザーから、「明日午後ホストチェンジ、フライトの時間」とのみ書かれたメモが渡された。そこで、訴外米国法人の本部に電話したが、電話中であるとか、今忙しいなどと言って、故意に担当者につなごうとしなかった。

原告は、空港までの交通やチェンジ先の情報などが分からないまま、原告の母に電話し、原告の母からホストマザーに、原告を空港まで送ってくれるように丁重に頼んでもらい、その了解を得た。

なお、原告の親は、被告会社に対してチェンジ先を尋ねたが、被告会社は、ホストチェンジが決定したことも知らず、「嘘でしょう。」と言うだけであった。

(五) ホストチェンジ後のホストファミリーは、カリフォルニア州のハイゲラー家で、車のセールスマンをしている夫、共働きの妻の二人家族であったが、転校先の高校とされた学校は、スクールバスも来ないような隣町の学校であり、入学手続もされていなかったし、ホストファミリーによる送迎が行われるかどうか、不安定な状態のままであった。また、家の中の電話が隠されて、外部との連絡ができなくされており、さらに、ホストファミリーに朝の挨拶をしても、返事をしてもらえないという状態であった。

しかも、カリフォルニアのエリアレップからは、その間、何らの連絡もないままであった。

(六) 原告は、かかる状態にしたのは原告を帰国させるための準備であると考え、やむなく帰国することに決め、一一月一八日、大道路を歩いて見つけた公衆電話から、訴外米国法人本部の担当者ティナに電話して、帰国を申し出るとともに、原告の両親に対しても、電話で、泣きながら帰国したいと訴えた。

原告の親は、直ちに被告会社に帰国を願い出たところ、当初、「帰国要請の文書を提出すれば帰国させる。」と回答したので、ファックスでその旨の文書を送付した。ところが、その後、被告会社は、態度を急変させ、「帰す、帰さないは、訴外米国法人に決定権がある。誰も帰すとは言っていない。留学生として不適格と認めるか。認めないと帰国させない。」と言い出した。しかし、原告の親は、これには同意しなかった。

(七) 一一月二一日、原告は、訴外米国法人本部のティナから、帰国を承諾するとの通知をもらい、原告の親にすぐ連絡した。

原告の親は、被告会社に対し、帰国の日取りや航空便について問い合わせたが、被告会社は、帰国の決定があったことを知らないと言い、これに回答しなかった。

原告の親は、やむなく、原告が出発したときにタイ航空の往復航空券を持って行ったことから、タイ航空に問い合わせて、原告の搭乗していると思われる航空便を予想し、成田空港に迎えに行った。

4  被告らの責任

(一) 被告会社の責任

(1) 本件契約の債務不履行

ア まず、被告会社が、原告に紹介したホストファミリーは、いずれも未成年の少女が生活していくに耐えないほど劣悪なものであった。その詳細は前記のとおりであるが、中でも、アンダーソン家では食事が出されなかったし、ハイゲラー家では、通学が困難で、かつ、ホストマザーが原告を理由もなく嫌悪して、冷たい態度であった。これは、被告会社が行ったホストファミリーの選択に誤りがあったという他はなく、本件契約上の不完全履行である。

イ また、被告会社は、留学生とホストファミリーとの間が円滑であるように配慮し、何か問題があったときは、被告会社が率先して解決に当たると約束していた。ところが、オレゴン州エリアレップのマーシャがとった行動は前記のとおりであって、カリフォルニア州のエリアレップにいたっては、連絡一つ、よこしたことがなかったから、原告とホストファミリーとの間が円滑にいくように努めたことはないのである。また、被告会社のした連絡というのも、原告の母親からの訴えを訴外米国法人に伝え、訴外米国法人からの報告を原告の母親に伝えたというにすぎず、原告との関係でも、訴外米国法人本部のティナの話がきちんと伝わるように電話をかけただけで、それ以上に連絡をしたとか、問題を率先して解決するために行動したことはなく、被告会社には本件契約上の債務不履行がある。

(2) 不法行為

ア 被告会社は、右のとおり、原告に対して、極めて劣悪なホストファミリーを押しつけ、通学困難な学校を選択し、かつ、手段を選ばぬ嫌がらせで、原告を精神的、肉体的に追い詰めて、留学を放棄させたのであるから、右債務不履行責任と選択的に民法七〇九条に基づき、原告の損害を賠償すべき義務がある。

イ 仮に、本件契約の相手方が被告会社ではなく、訴外米国法人であると認められた場合には、右不法行為は訴外米国法人が行ったことになるが、被告会社は、前記請求原因2(一)(1)に記載したとおり、訴外米国法人とともに協力しながら、前記事業を推進していたことに他ならない。結局、被告会社は、共同して、訴外米国法人の右不法行為に加担したものである。

よって、被告会社は、民法七一九条、七〇九条の共同不法行為に基づき、訴外米国法人と連帯して、原告の損害を賠償すべき義務がある。

(3) 仲介契約の債務不履行

仮に、被告会社が、訴外米国法人と原告との間の本件契約締結に関して仲介人であったと認められたとしても、被告会社は、仲介契約の付随的な債務として右4(一)(1)イの内容と同様の義務を負っているというべきであり、被告会社が右債務を履行していないことは、前同様である。

よって、被告会社は、仲介契約の債務不履行に基づき、原告の損害を賠償すべき義務がある。

(二) 被告中田の責任

(1) 商法二六六条の三に基づく責任

被告中田は、被告会社の代表取締役であり、被告会社をして、原告に対する右違法行為を行うことがないように職務を遂行すべき責任があるところ、悪意又は重過失により、留学先のホストファミリーがその目的を達し得る程度のものであることの確認を怠り、訴外米国法人への善処方の申入れもせず、被告会社は、むしろ、原告に対し、前記のとおり、手段を選ばぬ嫌がらせを行った。

その結果、原告は、後記損害を受けたものであり、被告中田は、商法二六六条の三に基づき、右損害を賠償すべき義務がある。

(2) 不法行為

ア 被告中田は、訴外米国法人が、原告に用意したホストファミリーが劣悪のものであることを知り、もしくは、知り得たにもかかわらず、あえて、原告と訴外米国法人間の本件契約締結に関与して、訴外米国法人の不法行為に加担した。

イ また、被告中田は、原告から待遇改善の申入れを受けながら、適切な措置をとらず、自ら又は被告会社従業員片山をして、原告に対し、嫌がらせ行為を行い、もって、訴外米国法人の不法行為に加担した。

ウ そのため、原告は米国留学を断念せざるを得なくなったのであるから、被告中田は、民法七一九条、七〇九条に基づき、損害を賠償すべき義務がある。

5  損害

(一) 負担金名目の契約金

九〇万円

(二) エバーグリーン大学における英語研修費用 一八万円

(三) 選考料 一万円

(四) ホストファミリー、学校等へのおみやげ 五万円

(五) 生活用品の運送費

一二万五六五六円

(六) 食品の小包送料

五万八四〇〇円

(七) 被告会社がケアしなかったことによる国際電話料と被告会社に対する電話料 二六万四〇七一円

(八) アンダーソン宅の電話使用料 三万八六一五円

(九) ハイゲラー宅の電話使用料

一万九六〇七円

(一〇) 帰国時の成田空港への送迎費用 一〇万円

(一一) アメリカでの学費、日用品代などの経費の送金分 一八万円

(一二) 慰謝料 三〇〇万円

(一三) 弁護士費用 一〇〇万円

(合計 五九二万六三四九円)

6  まとめ

よって、原告は、被告会社に対しては、主位的には、本件契約の債務不履行もしくは不法行為に基づき、予備的には、共同不法行為もしくは仲介契約の債務不履行に基づき、被告中田に対しては、商法二六六条の三もしくは共同不法行為に基づき、連帯して、金五九二万六三四九円とこれに対する訴状送達の日の翌日である平成二年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払うように求める。

二  請求原因に対する認否、反論(本案前の抗弁を含む。)

1  請求原因1(一)、(二)は認める。

2(一)  請求原因2(一)のうち、原告が本件契約を被告会社を相手方として締結されたとの主張は否認し、それを前提とした主張は争う。

本件契約は、原告と訴外米国法人とが締結したものである。ところで、本件で問題となっている留学システムは、訴外米国法人の企画による青少年の交流を目的とした公益事業である。そして、そのことは、配布済みのパンフレットの中で、ホームステイを伴う公立高校への正規留学は訴外米国法人が主体的に運営する旨、説明しているところである。被告会社は、かかる事業がもつ社会的意義にかんがみ、ボランティア活動として、訴外米国法人を支援、援助することを約束し、その一環として、訴外米国法人の「米国公立高校正規留学ガイド」などのパンフレットの配布、留学生の選考試験、契約金の受領などの事務処理を行った。しかし、それは、すべて訴外米国法人からの事業委託を受けて行ったものであり、したがって、被告会社がホストファミリーを選抜することはなく、留学生の受入れに関して最終決定を行うことも訴外米国法人において行われている。

なお、EFFS日本事務局は、訴外米国法人の日本事務局であり、日本事務局に代表者はなく、負担金の取得者も、送金先口座は確かに被告会社の口座ではあったものの、訴外米国法人である。

(二)  請求原因2(二)は、そのうち、被告会社が訴外米国法人の「米国公立高校正規留学ガイド」などのパンフレットの配布、留学生の選考試験、契約金の受領などの事務処理を行ったことを認め、その余は否認ないし争う。原告は、被告会社がかかる事務処理を行っていたことをもって、被告会社が訴外米国法人の代理人として行為したとも主張するが、被告会社は、訴外米国法人の代理人となったことはない。また、被告会社が、原告から本件契約の締結に関して仲介を依頼されたこともないから、仲介契約締結の主張も否認する。

3  請求原因3のうち、原告は、ホストファミリーが劣悪であった、訴外米国法人のエリアレップの対応が不適切であった、被告会社が関係者と密接な連絡を取らなかったなどといって非難するが、かかる事実はなく、否認する。

まず、ホストファミリーの点であるが、アンダーソン家は、日本の中流家庭より優れた設備を持ち、原告から机がないと要望されれば、ホストシスターを移して、原告に一室を与え、ピアノのレッスンがしたいと言われれば、それも手配し、送迎までしている。食事の問題でも、アンダーソン家は、セブンイレブンを経営する共働き夫婦で、毎夕食をともにはできなかったが、冷蔵庫の中に何も入っていなかったということはない(但し、故障中の一時期、何も入っていないことがあった。)。そして、アンダーソン婦人は、頼めば、食事の材料を買いに行っていたのである。原告は、アメリカ流の食事になじめず、拒否していたにすぎない。原告が風邪をひき、寝込んだときの対応についても、ホストファミリーが医者に連れていくと言ったのに、原告が断り、原告に家庭内にあった医薬品を渡しても、服用を拒絶した。また、ハイゲラー夫婦は、従前から留学生の面倒を見ていた経験者であって、ハイゲラー家は高校からは遠かったが、送迎はホストファミリーによってなされていた。しかるに、原告は、なぜか、ハイゲラー夫人を毛嫌いし、打ち解けなかったのである。

エリアレップや被告会社の対応についても、エリアレップ及びEFFS日本事務局は、原告とホストファミリー間の調整、ホストファミリーのチェンジなどにつき、誠心誠意、努力しており、問題はない。原告のホストチェンジの要求は、自己の適応能力が劣ることの自覚がないままにされたものであったが、訴外米国法人としては手段を尽くしてもなお適応できないものと判断し、ホストファミリーのチェンジを行うこととしたが、それも、事前に、EFFS日本事務局が原告の母に確認して、母からすべて訴外米国法人の判断に委ねるとの確認を得てからしたことである。また、事前に原告の伯母に新しいホストファミリーに会ってもらい、原告の伯母は、ハイゲラー夫婦が素晴らしい人達であると賞賛までしていた。

ところが、原告は、ハイゲラー家になじむことができず、学校を無断で休んだり、ホストファミリーと口をきかず、無視するような態度をとるようになったため、訴外米国法人は、一一月一八日、EFFS日本事務局を通じて原告の父母に対し、「原告に対し、①ホストファミリーともっと話をしなさい、②家族の活動にもっと参加しなさい、③自分自身をもっと表現して、自分が興味を持っている事柄についてはっきり示しなさい、④自分自身を表現するときにはもっとはっきり言いなさい。⑤ホストファミリーに対して、自分が彼らを大切に思っていること、家族の一員になりたいと思っていることを、もっと示しなさいという五項目について改善するよう求めたが、一定期間内に、改善が認められないときは帰国を検討すべきである。」旨の警告を行った。

これに対し、原告の父母から、一一月一九日に、EFFS日本事務局に対し、正式に原告を帰国させる旨の意思表示があったので、訴外米国法人は、直ちに、原告自身の意思を確認した上で、原告を帰国させることとし、一一月二四日、原告は帰国の途についたのである。訴外米国法人及びEFFS日本事務局は、原告の帰国に関し、飛行機の手配に充分な配慮をし、原告の両親とも連絡を取っていた。

原告は、被告らが配慮を欠いたために、原告が中途で帰国せざるを得なくなったと主張するが、帰国せざるを得なかった本当の理由は、前にも述べたとおり、原告自身が留学及びホームステイへの適応能力に欠けていたからである。原告は、留学した当初から、①自分の机を用意せよ、②同室のホストシスターが早起きするので睡眠不足になるから改善せよ、③コーラをたくさん飲んだり、冷凍食品をたくさん食べるのは嫌だ、自分に合った食事を作ってほしいなど、わがままを並べ、あたかも旅行社のパック旅行に参加している態度であった。原告には、他にも、④ホームステイ先の電話を使い、日本人留学生と長電話をしていた、⑤ホストブラザーが出場するフットボールの観戦をしばしば誘われ、その都度、フットボールは嫌いだと言って断っていたのに、日本人留学生が出場するフットボールの試合には、体調不良をおして観戦に出かけた、⑥ホストファミリーが風邪を心配して、いろいろ申し出たが、これを拒絶し、自室に籠もったままであった、⑦学校を無断で欠席することが度々あった、などの行動がみられた。要するに、原告は、ホストファミリーと積極的に交流し、アメリカ文化を体験したり、心の交わり合いを行うという姿勢に欠けていたというべきである。

4  請求原因4はすべて争う。

前記のとおり、被告会社は、原告との間で本件契約や仲介契約を締結したことはなく、訴外米国法人の代理人として本件契約を締結したこともない。しかも、訴外米国法人に不法行為はなかったし、EFFS日本事務局も、原告のためにできる限り手段を講じたのであって、不法行為が成立する理由もない。

また、被告中田は、商法二六六条の三の責任が生ずる行為をしたことはなく、訴外米国法人の不法行為に加担したということもない。原告に対して損害を与えた事実もない。

5  請求原因5はすべて争う。

6  請求原因6も争う。

なお、本件契約の当事者が訴外米国法人であって被告会社ではないことは右に主張したとおりであるから、本件訴えのうち、本件契約が被告会社との間で締結されたことを前提にした部分は、被告会社に当事者適格がなく、訴えは違法として却下されるべきであり、被告中田に対する訴えも、被告中田に商法二六六条の三の責任を問われる被告適格はないから、違法として却下されるべきである(本案前の抗弁)。

第三  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本案前の抗弁について

本件は、原告が、被告会社及び被告中田の行為に契約上もしくは社会的な違法があると主張して、被告会社及び被告中田に損害賠償請求を行っているものであるが、本件契約の当事者が誰であるかということは、まさに、請求の当否を判断する上での本案の問題であって、被告適格の有無という問題ではなく、本件のような給付訴訟においては、給付義務者であると原告が主張している者に被告適格があると解すべきである。

よって、被告らの本案前の抗弁は理由がない。

二  当事者について

原告主張の請求原因1の事実(当事者)は、当事者間に争いがない。

ところで、証拠(〈略〉)及び弁論の全趣旨によれば、①被告会社は、日本の学生等の海外語学研修旅行の計画、斡旋等を目的として昭和四八年に設立された株式会社であって、本件当時、提携先のエドケーショナル・ファウンデーション・インターナショナル・ランゲージ・スクールズ(訴外米国法人の関連会社)の語学学校に日本人学生等を派遣し、寮やホームステイを利用して語学研修を受けさせることを主要な業務にしていたこと、②被告会社は前年度から本件米国公立高校正規留学プログラムの取扱いを始めていたが、初年度において既に若干のトラブルが発生していたことが認められる。

右認定事実によれば、被告会社は、右業務を通じて日本人留学生の海外での実情や起こり得る問題、その解決策等について、少なからぬ知識、情報、経験能力等を有していたものであって、原告の参加した年度の本件米国公立高校正規留学プログラムにおいても、留学生に何らかのトラブルが生じる可能性があることを予見し得る立場にあったものと推認される。

そうすると、本件の中心的争点は、①原告と被告会社間の法律関係(本件契約における被告会社の地位)、②被告会社の契約上の義務ないし注意義務の存否及びその内容、③被告会社の義務違反の事実の有無等であるので、以下、右の点について判断する。

三  原告と被告会社間の法律関係(本件契約における被告会社の地位)

1  本件契約をめぐる事実関係

(一)  証拠(〈略〉)及び弁論の全趣旨によれば、(1)合衆国情報庁(USIA)の交換留学者プログラムに関する規則により、青少年交換留学者プログラムを実施する団体は、責任をもって、①学生の選考(他国の団体の援助を受けてもよいが営利機関であってはならない)、②青少年交換留学者及びホストファミリーに対するオリエンテーションの実施、③すべての青少年交換留学者に対する健康及び災害保険の適用の保証、④ホストファミリーの手配及び変更、⑤青少年交換留学者、ホストファミリー、高等学校との連絡及びトラブルの処理、⑥ビザ申請に関する事務等を行わなければならないなどと定められていること、(2)訴外米国法人は、本件当時、右合衆国情報庁の規則に基づき認可された青少年交換留学者プログラムを運営している非営利団体で、右プログラムを実施するため、パンフレットやオリエンテーションの資料、選考試験のマニュアルなどを作成して被告会社に送付し、被告会社から送られてきた選考試験の結果に基づき学生の合否の決定を行い、他方、自ら募集したホストファミリーとの間でホストファミリー契約を締結し、各留学生を審査の上、適当なホストファミリーを選択して各ホストファミリー先に配置し、受入高校を決定するとともに、各地にエリアレップと呼ばれるスタッフを置いて留学生の世話に当たらせるなどの措置をとっていたことが認められる。

(二)  また、証拠(〈略〉)及び弁論の全趣旨によれば、(1)被告会社は、本件当時、「EFFS日本事務局」あるいは「EFFS日本オフィス」の名称を使用して、訴外米国法人の実施する右留学プログラムに関する広告、パンフレットの配布、学生の募集及び選考試験、申込書及び契約金の受領、オリエンテーションの実施、出発準備等の事務を行っており、出発後は、トラブルがあった時の留守家族に対する連絡等を行うこととされていたこと、(2)被告会社が学生に配布していた「米国公立高校正規留学ガイド」と称するパンフレットは、訴外米国法人から送付されてきた英文の文書を日本語に翻訳したものであり、被告会社の名前は一切出ておらず、EFFS日本事務局が存在する旨記載されていたに過ぎないこと、(3)学生の選考試験は、訴外米国法人の作成した試験のマニュアルに従って行われ、合否の判定も、被告会社から送付される試験結果に基づき訴外米国法人が最終的な決定を下していたこと、(4)出発前のオリエンテーションも、訴外米国法人から送られてくるガイドに基づいて行われていたこと、(5)契約金を振り込む銀行口座は被告会社の口座であるが、名義は「EFFSイーエフカレッジズ インタースタディ」となっていたこと、(6)被告会社は契約金のうちから広告費やオリエンテーションに要した実費を取得し、残りを訴外米国法人に送金して、それが留学生の交通費、滞在費、訴外米国法人の運営費等に充てられていること、(7)ホストファミリー及び受入高校の選択及び決定は専ら訴外米国法人が行っていて、被告会社はその過程に関与できず、ただ、訴外米国法人から送付される書面を通じて事後的にこれらに関する情報を知ることができるに過ぎないことが認められる。

(三)  そして、証拠(〈略〉)及び弁論の全趣旨によれば、(1)原告は、昭和六〇年九月、被告会社の実施する選考試験を受け、その後、同月二七日付、「EFFS日本オフィスディレクター坂川正広」作成名義の合格通知書を受け取ったところ、右合格通知書には、「EFFS米国公立高校正規留学制度への正式参加を認める」との記載のあったこと、(2)同年一〇月二日、原告は、裏面に「EFFS米国公立高校正規留学制度への参加は、第一回目の支払いがなされた時点から有効になります。」との記載のある「EFFS米国公立高校正規留学制度申込書」(乙第一号証)と題する書面に署名捺印し、同月七日、契約金の内金一五万円を支払ったこと、(3)同年一二月八日、原告はEFFS米国高校留学申込書に必要事項を英字で記入して署名捺印し、右申込書は原告のクラス担任及び英語担当教師の推薦状などとともに訴外米国法人に送付されたこと、(4)その後、昭和六一年五月二二日付で訴外米国法人から、「EFFS米国公立高校正規留学制度への参加を認める」旨の通知が来たことが認められる。

(四)  他方、証拠(〈略〉)及び弁論の全趣旨によれば、①被告会社が原告に配布した「米国公立高校正規留学ガイド」には、「日本のEFFSは、アメリカのEFFS本部と毎日連絡を取りあいながら、留学生のお世話にあたっています。」(五頁)、「(主催者が日本とアメリカで)同一組織で運営されていることは、その組織がインターナショナルな基盤をもっており、緊急時や困った時には日本語でもコミュニケートできることを意味しています。日本には数多くの高校生留学プログラムがありますが、中には実際の運営を留学先の国にある受入専門の組織にまかせてしまっているものも多くみられます。このような場合、さまざまなトラブルが発生しやすいので注意が必要です。」(二一頁)と記載されていること、②被告会社の担当者である勝峰は、昭和六一年六月のオリエンテーションの際、原告やその親らに対し、何か問題が生じたときは、ホストファミリーやエリアレップなどと相談し、それでも解決できない場合にはEFFS日本事務局に相談するようになどと説明したことも認められる。

2  本件契約における原告の相手方

右1(一)ないし(四)認定の事実によると、本件米国公立高校正規留学プログラムの主催者はあくまで訴外米国法人であり、被告会社は、「EFFS日本事務局」を名乗り、訴外米国法人から逐一指示された内容に従って前記各種事務を行っていたものであって、このような右各種事務の遂行における被告会社と訴外米国法人の関係に照らすと、被告会社は、訴外米国法人からの事務の受託者として、訴外米国法人のために前記の各種事務を処理していたものと認められ、また、第三者との法律行為の場合には訴外米国法人の使者として行動していたものと認められる。

そうすると、原告が被告会社に対し、昭和六〇年一〇月二日に前記申込書(乙第一号証)を差し入れ、同月七日に契約金の内金一五万円を支払った時点で原告と訴外米国法人を当事者とする本件契約が成立したものといわなければならない。

なお、右の点について、原告は、被告会社と「EFFS日本事務局」又は「EFFS日本オフィス」とは、所在地、電話、従業員などがすべて同じであるから、「EFFS日本事務局」又は「EFFS日本オフィス」は被告会社そのものに他ならず、ただ、合衆国情報庁の規則により、日本における送り出し団体についても非営利団体でなければならないとされているため、そのような名称を使用しているに過ぎないのであって、本件契約は、昭和六〇年一〇月七日の時点で原告と被告会社との間に成立したと主張するので、検討を加えるに、確かに、証拠(〈略〉)及び弁論の全趣旨によれば、「EFFS日本事務局」又は「EFFS日本オフィス」は、人的、物的には、被告会社そのものであることが明らかである。しかし、被告会社は、訴外米国法人からの事務の受託者ないし使者として、本件米国公立高校正規留学プログラムに関する事務を、訴外米国法人のために行っているのであって、「EFFS日本事務局」又は「EFFS日本オフィス」の名称は、右留学プログラムにおけるそのような被告会社の地位を表すために用いているものと認められ、単に、合衆国情報庁の規則の関係だけでそのような名称を用いているとはいえないこと、被告会社が本件契約の当事者として自己のために前記各種事務を処理していたことを認めるに足りる的確な証拠もないこと、前記昭和六〇年一〇月二日付申込書における意思表示の相手方である「EFFS日本事務局」は被告会社そのものを指すというよりも、訴外米国法人の使者としての被告会社を表すものであること等からすると、右意思表示の効果は直接訴外米国法人に帰属するものというべきである。ちなみに、仮に、原告主張のように、本件契約が原告と被告会社との間に成立したものとすると、被告会社は本件契約上の義務の履行をさらに訴外米国法人に委託しなければならないはずであるが、被告会社と訴外米国法人との間にそのような委託関係があることを認めるに足りる証拠もない。

3  原告と被告会社との間の法律関係

原告は、仮に、本件契約における原告の相手方当事者が訴外米国法人であるとしても、原告が被告会社に本件米国公立高校正規留学プログラムの選考出願書を提出した昭和六〇年八月ころ、原告と被告会社との間に、原告と訴外米国法人が本件契約を締結するための仲介契約が成立したと主張する。

しかし、前記のとおり、被告会社は、訴外米国法人から事務の委託を受け、訴外米国法人に対する義務の履行として前記各種事務を処理していたものであり、被告会社と原告との間に原告主張にかかる仲介契約が成立したことを認めるに足りる証拠はないし、また、被告会社の前記各種の事務処理の過程で、原告と被告会社との間に黙示の仲介契約が成立したと認めることもできないから、原告の右主張は失当というほかない。

4  以上によれば、原告と被告会社との間で、原告主張のような本件契約や仲介契約が締結されたとは認められないから、右契約の存在を前提とする原告の債務不履行に基づく損害賠償請求は、いずれもその余の争点について判断するまでもなく、理由がない。

また、原告の被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求中、被告会社がホストファミリーや学校を選択し、原告に対する嫌がらせ行為を行ったことを前提にする部分も、同様に理由がない。

四  被告会社の共同不法行為の成否

1  ところで、被告会社が、訴外米国法人の委託を受け、原告と訴外米国法人との間で本件契約が締結されることにつき積極的に関与していた事実があることは、前記認定のとおりであるから、本件契約締結時点で、本件契約の一方当事者である訴外米国法人が原告に対して不法行為を行うことが明らかであったとか、もしくは、不法行為が行われる可能性が高いものであったという場合に、被告会社がそのことを知りながら、そのことを原告に告げず、本件契約の締結に向けて積極的に関与したとすれば、被告会社は、民法七一九条、七〇九条の共同不法行為者として、その損害を賠償する責任があるものといわなければならない。

2  そこで、まず、原告の米国での留学の様子がどのようなものであり、訴外米国法人の原告に対する対応がどうであったかについて、検討する。

(一)  アンダーソン家での留学生活

証拠(〈略〉)によると、次の事実が認められる。

(1) 原告が、オレゴン州ポートアイランドのアンダーソン家に到着するまでの経緯は、請求原因2(一)記載のとおりであり、アンダーソン家では、エリアレップのマーシャとともに、原告を空港まで出迎え、部屋には、歓迎の意味をしるしたカードを持った縫いぐるみを置くなどして、歓迎の意を表した。

(2) アンダーソン家は、セブン・イレブンを経営する一家で、朝早く家を出て、夜遅くに帰ることが多く、ホストシスターやホストブラザーの帰宅も遅いことが多かったから、原告とすれ違いの生活も多くなった。

それでも、ホストマザーは、原告を、学校、銀行、郵便局などに案内して、必要な手続をとらせ、原告からの依頼でピアノの先生を紹介し、週一回のレッスンには送り迎えをするなどした。また、原告は、一度ドライブに誘ってもらったり、毎週行われていたフットボールの試合にも誘われたりし、ホストシスターと日本庭園に出かけるなどしていた。

食事は、アンダーソン家の者とともに食事ができるときは一緒にしていたが、アンダーソン家では、そもそも、一家が皆で食事をすることが多くなかったため、原告は、一人だけで、家で料理したり、買い置いていた食料品などを食べて済ませることも少なくなかった。そして、アンダーソン家の周囲には、一六歳の少女である原告が、徒歩で行くことができる食料品店は見あたらず、また、原告からホストファミリーに対して積極的に食料品の購入希望を伝えることもしなかったため、原告は、夕食を作る材料を確保できずに、苦労したこともあった。

(3) 原告は、部屋をホストシスターと供用で使うように言われたが、部屋には、机が一つしかなく、その机の上には、ホストシスターの物が置かれていた。そこで、原告は、アンダーソン家に遠慮し、台所のテーブルを使うようになった。また、原告は、当初朝八時ころに起床していたが、その時間には、アンダーソン家は、ホストシスターを除き、皆が出かけていた。学校が始まるようになると、ホストシスターは学校のクラブの関係で午前六時三〇分登校、原告は午前七時三〇分登校(スクールバスは午前六時五〇分発)となったため、ホストシスターは、目覚まし時計を午前五時三〇分ころにセットするようになった。

そこで、原告は、ホストシスターに不服を述べ、九月中旬には、原告の母親に対し「机を買ってどこかに置かせてもらってよいかどうか、被告会社を通じてアンダーソン家に聞いてほしい。ホストシスターが朝早く目覚ましを鳴らすので睡眠不足である。食事も作ってもらえない。」旨の手紙を出し、原告の母は、被告会社にその旨連絡したが、被告会社は「調査して返事する。」と答え、訴外米国法人に事実関係の調査を依頼したが、最終的な回答はされなかった。

(4) 原告は、九月末ころから、夜だけ、一階の居間のソファで寝るようにしたところ、ホストマザーから、一階の洗濯部屋を原告の部屋にしてはどうかと提案があった。原告は、洗濯部屋は環境が悪いと言って断り、すぐにエリアレップのマーシャに相談をしたところ、マーシャは、ホストマザーと協議すると述べていた。そして、一〇月一〇日ころになり、急に、ホストシスターのベッドが洗濯部屋に移された。原告は、ホストマザーに対して他の方法はないかと尋ねたが、ホストマザーは構わないと返事したにとどまり、その後、訴外米国法人から被告会社に対し、原告が自分の部屋を持つようになったことの報告があった。

(5) アンダーソン家では、原告が、外出先から先に帰ったり、フットボールの試合に誘っても断ることがあったりしたことから、原告は一人にされる方が良いのだろうと考えるようになり、一〇月中旬以降になると、ホストファミリーが原告を誘わずに外出したり、食事の材料がなくて、原告が困ることが増えるようになった。また、そのころ、原告は風邪を引き、三日間、寝込んだが、その間、原告は、ホストマザーが原告のために買ってきたアイスクリームを食べただけであった。

そこで、原告は、ホストファミリーに、買物に連れていってほしいと頼み、連れて行ってもらったほか、原告の母親にも連絡し、さらに、一〇月二〇日には、エリアレップのマーシャとコニー(但し、コニーは他地区の担当者である。)にも、食事の件について相談したが、特に、進展はみられなかった。

(6) 原告の母親は、一〇月二〇日ころ、被告会社に電話して、「原告は、風邪で寝込んだときに、三日間放置された。人間としての最低限の権利である睡眠と食事が満足に与えられていない。」などと抗議した。被告会社の担当者は、「不満があれば原告自身が言わなければならない。母親の抗議するような態度はかえって原告を窮地に追いやる。」などと述べて、抗議を受け付けなかった。

しかし、被告会社は、訴外米国法人に対し、原告の母親からの抗議内容を伝え、エリアレップの意見を聞いてほしいと頼んだ。

(7) 一〇月二一日、エリアレップのマーシャとコニーがアンダーソン家を訪ね、同人らは、腹痛のため、ホストマザーの了解を得て休んでいた原告に対し、「何で学校を休んでいるのか。私がホストファミリーなら首ねっこをつかんで放り出す」「あなたに机は必要ない」「犬を虐待している」「日本食を要求し、アメリカの食事をとらない」「こんな面接試験の成績で何で留学できたのか。信じられない」などとまくしたてた。

二人が帰った後、ホストマザーに事情を聞いたが、エリアレップの言うことは事実でないし、自分もそのように話してはいないと述べたので、原告は、訴外米国法人本部の担当者ティナに電話して、エリアレップの言うことは事実でないと訴え、訴外米国法人も調査すると約束した。

(8) 同月二二日、訴外米国法人本部のティナから被告会社に回答が届けられたが、その中で、エリアレップは「ホストファミリーの人柄に問題はない。しかし、原告が適応に努力していない(テレビを見る時間にピアノの練習をしたがる、アメリカの食品は健康に良くないといって日本食を欲しがる、自分で食事を作らない、自分の部屋に閉じ籠もって家族の活動に参加しない、日本留学生ばかりと話をする)。不満があれば原告自身がホストファミリーに話すことが重要である。エリアレップとしては、ホストチェンジしてもそこで同じ問題が起こるだけと考える。」旨の意見を持っていると伝えてきた。そして、実際にも、原告は、九月末ころから一一月六日までの間、五〇回近く、延べ約一六時間にわたって電話を利用し、日本人留学生や原告の母親らと話していた。そこで、被告会社は右回答の内容を原告の母親に伝えた。

ところが、原告の母親は、同日、原告から、エリアレップ二人がアンダーソン家を訪れたときの話を聞かされて、すぐ被告会社に電話し、エリアレップはとんでもない人達であるなどと言って、これに抗議した。これに対し、被告会社の担当者は、「EFが信用できないのであれば、いつ引き取ってもらっても結構だ。食事がないというのは嘘だ。きちんと面倒を見ているのに、原告はホストマザーに迷惑をかけて、自分では何もしようとしない。このままでは強制送還する。」などと反論した。もっとも、被告会社は、訴外米国法人に対して、原告の母親の抗議内容を伝えるとともに、原告がアメリカの生活に慣れるまで見守ってほしい旨要請したところ、訴外米国法人から、「原告に若干誤解した点があったと思われるので今後を見守りたい。エリアレップのマーシャには原告に詫びるように話しておいた。」旨の返事があった。

(9) そして、一〇月二五日、マーシャが花束を持って、原告に謝りを言いにきたが、その際に、マーシャやホストマザーが、原告が部屋から出てきたときにきちんと説明すべきであったなどと発言したことから、原告はマーシャと直接に話すことを拒み、事態は好転しなかった。そして、原告は、ホストチェンジを求めるようになった。

一〇月二七日には、訴外米国法人のティナから被告会社に対し、種々の事情、すなわち、原告がマーシャを許そうとしないこと、ホストファミリーとフットボールの観戦に出かけないこと、原告を残して外出する、ピアノの練習をさせないなどと言って、友人に対しホストファミリーに対する不平を述べていることなどの事情をあげ、原告につきホストチェンジを検討しているとの説明がされ、さらに、訴外米国法人から原告に対しても、ホストチェンジの意思があるかどうかについて、直接に確認の電話があった。そして、訴外米国法人は、一〇月二八日、被告会社に対し、原告のホストチェンジを決定したが、新しいホストファミリーは未定である旨を通知し、被告会社は、一〇月二九日、原告の母親に対し、その旨を連絡し、原告の母親もこれを了承した。

(10) 訴外米国法人は、その後、原告に対し、カリフォルニア州とアイダホ州とが候補にのぼっていると伝え、原告も、これを前提に、一一月五日に、高校の退学届を済ませた。そして、原告は、友人宅に寄って帰宅してみると、ホストマザーの書いたメモが残されていた。それには、訴外米国法人のティナから、新しいホストファミリーが決定したと連絡があったことと、新しいホストファミリーの氏名、住所、移動に使う航空便の発着時間、航空チケットの受渡方法が書かれていた。原告は、すぐ、訴外米国法人のティナに電話したが、ティナとは連絡がとれず、原告の母親に電話し、さらに、原告の姉からアンダーソン夫人に電話して、ホストマザーに対して、原告を空港まで送ってもらうように頼んだ。そして、原告は、一一月六日午後に、同夫人の運転で空港に行き、新しいホストファミリーのもとに出発することができた。

なお、被告会社は、原告の母親が一一月六日に被告会社に連絡した時点で、原告の新しいホストファミリーが決まったことを知らされていなかったが、同月七日に、訴外米国法人から被告会社に対して新しいホストファミリーについての詳しい情報が送られてきたので、これを原告の親に知らせた。

(二)  ホストチェンジ後の経緯

証拠(〈略〉)によると、原告がホストチェンジをした後、帰国するまでの経緯は、次のとおりであったと認められる。

(1) 原告は、一一月六日夜、カリフォルニア州のフレスノ空港に到着したが、空港には新しいホストファミリーであるハイゲラー夫婦が迎えにきていた。ハイゲラー家は、夫婦二人暮らしであった。

この時点では、原告が通学する高校は正式に決まってなかったが、すぐにカウンセラーの面接を受けるなどして、同月一〇日には、ツラレ・ウェスタン・ハイスクールに編入する手続をとった。

(2) しかし、同高校は、ハイゲラー家のあるバイセリア市の隣町にあり、ハイゲラー家からは一〇キロメートル以上離れていて、スクールバスが来ないところであった。そのため、原告は、ホストファーザーに送迎を頼んでいた。ホストファーザーからは、当初、都合で午後六時ころに学校に迎えに行くから、学校で待っていてほしいと言われたが、友人から一人で待っているのは危険であると教えられたため、結局、毎日、ホストファーザーに授業の終わるころに来てほしいと頼み、迎えに来てもらっていた(もっとも、霧のため授業の開始が遅れることがあり、そのときはホストファーザーから送って行くことができないと断られて、学校を休んだこともあった。)。

(3) ハイゲラー家での生活も、すぐに、ホストマザーと原告との関係が円滑にいかなくなった。最初は、ホストマザーが原告の上着を洗濯機でも洗えると言ったことに対し、原告は、洗濯機で洗えないマークがついているから、手洗いするという程度のことであったが、その後、ホストマザーから原告に対し、電話している時間が長すぎると注意がなされたり、原告が聞き取れなくて聞き返すと何度も聞き返してくるなと言われたりし、さらに、ホストマザーからアンダーソン夫人に原告のことにつき問い合わせがされるなどして、次第に円滑さが損なわれていった。

(4) ホストファーザーは、同月一四日、訴外米国法人のティナに電話して、「原告がホストマザーと口を聞かない。電話で、日本語を頻繁に話している。クリスマスにサンフランシスコに行きたいと言っている。荷物の搬送について前のホストファミリーは非協力的であったというのでアンダーソン家に確認したがそのようなことはなかった。学校が遠いと言っている。アメリカの文化やアメリカ人への関心がないと感じられる。」などと報告したため、訴外米国法人は、同日、原告に電話し、①ホストファミリーともっと話して、家族の活動に参加すること、②原告が持っているアメリカ人への関心をはっきりと表現すること、③原告がホストファミリーの一員になりたいことを示すべきであることなどにつき、アドバイスを与えた。

なお、原告は、このころ、居間にある机で勉強することが多かったが、ホストファミリーが居間でテレビを見はじめたので、自室に戻り、勉強を始めたところ、ホストファミリーから自室に籠もっているのが気にいらないと注意され、居間で勉強を続けたことがあった。

(5) 同月一七日、訴外米国法人のティナは、原告に対し、「一定期間内に態度を改めないと強制送還する。」旨の電話をした。そして、ホストマザーは、同月一八日に原告の部屋にあった電話機をはずし、その後、昼間は家中の電話線をはずすなどして、原告が電話で話すことができないようにした。

これに対し、原告は、一八日、訴外米国法人のティナに電話して相談したが、ティナには、原告が悪いと言われて、取りあってもらえず、やむなく、付近の公衆電話まで歩いて行き、原告の母親に電話した。そして、母親に対し、家の電話を使えなくされたこと、学校の帰りもいつ迎えに来てもらえるのか不安があること、ホストマザーが冷たく当たるので満足に会話ができないことを訴えた。

(6) 原告の母親が、同日、被告会社の勝峰に電話して、電話も使えない状況なので何とかしてほしいと訴えると、両親から帰国願いが出されれば帰国させると言われ、原告の両親は、すぐ、被告会社に対し、ファックスで帰国願いを申し出た。また、被告会社の片山は、同日、原告の母親に対し、ティナから原告に対して前記のような注意がされていると伝え、同時に、原告は留学不適格であるなどと述べた。

原告の母親は、翌一九日、日通のサンフランシスコ支店に電話して、原告の荷物がまだハイゲラー宅に到着していないことを確認し、その荷物を日本に転送してくれるように依頼し、そのことを被告会社の片山に電話した。これに対し、被告会社の片山は、「正式に帰国させるとの話はしていないのに、なぜ勝手なことをするのか。帰す、帰さないを決める権限はこちらにある。原告の両親が、原告が留学不適格者であると認めるのなら帰国させる。」などと応答した。

(7) このころ、ホストファーザーが原告に対し、「一月の学期始めからであれば、近くの高校に編入できるので、そちらの高校に転校するか、現在の高校に通いやすい家にホストチェンジしてはどうか。」と尋ねたところ、原告は、帰国したいと述べた。なお、原告は、訴外米国法人のティナに、ホストファーザーの質問が、訴外米国法人の意向に基づくものかどうかを確認したが、ティナはそういう事実はないと答えた。

(8) 被告会社の勝峰は、一一月二〇日ころ、原告に電話して、どういう問題があるか知りたいので手紙に書いてほしいと告げた。原告は、これを原告の両親に伝えたところ、原告の父は、勝峰に対し、手紙などは必要ない、すぐに帰国させてほしい旨の申し出をした。

原告も、同月二一日、訴外米国法人本部のティナに電話して、帰国する意思を正式に伝えた。そして、翌二二日に、担当地区のエリアレップが、原告を初めて訪ね、帰国する意思の確認と電話代の支払を督促して帰っていった。

(9) 訴外米国法人のティナは、原告の帰国予定を聞いて、ホストファーザーが空港まで送って行くことの確認をとり、同月二二日、被告会社にその旨を連絡した。

原告の母親は、同月二一日に原告から帰国予定日が二五日であることを聞き、被告会社に対して便名と到着時間を尋ねたが、被告会社から回答がなかったため、タイ航空事務所の協力を得て、帰国便を推測し、原告を成田空港で出迎えた。

3 ところで、海外留学というものは、言語、文化や生活習慣の異なる外国で、全く面識もなく、性格も知らない家族らと生活を共にするものであって、相互に誤解や行き違いが生じやすいものであることはいうまでもない。言い換えれば、どのホームステイであっても、最初から円滑な関係が築かれているものではなく、むしろ、お互いに失敗を重ねながら、それを乗り越え、相互の理解と友情を深めていくことが重要なことであり、その過程というのも、留学生にとって意義の深いものとなる。しかし、他方では、ホストファミリーと留学生との間で誤解や行き違いが生じ、それがトラブルにまで発展して、容易に解決し得ない状況が生まれていることも、時々見られるところである。したがって、そのようなトラブルを未然に防ぎ、留学の目的を達成するためには、留学システムを作り、その運用に当たる者において、誤解や行き違いが大きなトラブルにまで発展することがないように、留学生の環境の整備に努めることが必要であることはいうまでもない。

しかるところ、原告は、「①訴外米国法人は原告に極めて劣悪なホストファミリーを押しつけ、②原告に通学困難な学校を選択し、③手段を選ばぬ嫌がらせをして、原告を精神的、肉体的に追い詰め、留学を放棄させた。」旨主張するので、右の各点について検討する。

まず、前記認定の事実関係の下では、訴外米国法人が原告のホストファミリーとして選択したアンダーソン家及びハイゲラー家が原告のホストファミリーとして不適格であったとまではこれを認めることができない。なお、原告は、アンダーソン家で食事が提供されなかったことを強調するが、正確には、アンダーソン家で調理した食事が出されることが少なかったという程度の意味であり、そのことは、アンダーソン家が夫婦ともに働く家庭であったことからも、やむを得ないところである。しかも、原告とアンダーソン家の子供達と比べて、食事の取扱いに大きな差異があったとも認められないし、また、アンダーソン家で、原告が食事を作り、充分な食事をとることを妨げていたということもない。さらに言えば、原告本人の供述によっても、原告は、自分が病気中であっても、アンダーソン家の人に対して調理した食事を提供してほしいと頼んだことがなく、勉強机を自費で購入したいということも、自分で直接に頼むことをしなかったのであり、睡眠不足の件も問題外というほかはなく、アンダーソン家がホストファミリーとして不適格であると決めつける理由はないものといわなければならない。また、原告は、ハイゲラー家が通学する高校から遠かったことや、ホストマザーが原告を毛嫌いしていたことを強調して、ホストファミリーの選択に誤りがあったとも主張するが、ハイゲラー家がホストファミリーとなった時点では、高校は学期の途中であったから、通学可能な高校が限定されることになっても仕方のないことであり、そのことは前記認定のハイゲラー家のホストファーザーの発言からも容易に知れるところであるから、訴外米国法人が原告に苦痛を与えるため殊更遠方の高校を選択したとまではいえないし、また、ホストマザーが原告を毛嫌いしたという点も、特に、根拠がある説明とも思われないし、また、そのことでハイゲラー家がホストファミリーとして不適格であると断定することは困難である。

原告は、また、訴外米国法人が原告に対して嫌がらせを行い、原告に留学を放棄させるように仕向けたとも主張している。確かに、エリアレップのマーシャが、原告からの苦情を、それが正しい判断であったかどうかは別にして、原告のわがままによるものと判断し、原告に対してかかる前提で対応していたこと、また、マーシャが原告に対して一方的な批判を浴びせたことがあったことは、前記認定のとおりであるが、前記認定のその前後の訴外米国法人本部の担当者の原告に対する対応や、その後にホストチェンジが行われたことなどの諸事情に徴すると、マーシャに右のような行為があったからといって、直ちにそれが訴外米国法人が原告に対して留学を放棄させるために仕向けた行動の一つであったということもできない。

4  以上、検討してきたところによれば、訴外米国法人が原告に対して不法な行為をしたと認めることはできず、したがって、被告会社が訴外米国法人の不法行為に加担したということもできない。

五  被告中田に対する請求について

1  原告は、商法二六六条の三もしくは共同不法行為に基づき、被告中田に対して損害賠償請求をしているところ、商法二六六条の三に基づく損害賠償請求は被告会社に債務不履行ないし不法行為があったことを、共同不法行為に基づく損害賠償請求は訴外米国法人に不法行為があったことをそれぞれ前提とするものである(請求原因4(二)(1)及び(2))。

2  前記説示のとおり、本件においては、被告会社に債務不履行ないし不法行為があったとは認められず、また、訴外米国法人に不法行為があったとも認められないから、右債務不履行ないし不法行為を前提とする原告の被告中田に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないものといわなければならない。

六  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大谷種臣 裁判官上原裕之 裁判官次田和明)

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